復職は回復の「ゴール」ではなく、回復の「プロセス」
ここでひとつ、大切な前提があります。復職は「ゴール」ではなく、回復の途中にあるプロセスだということです。
症状が落ち着いたとしても、体力、思考力、ストレスへの耐性は、まだ回復の途中にあります。そこに、仕事という現実の負荷が加わります。心身のバランスが崩れると、再び不調が出てくることがあります。
これは意志の弱さでも、治りきっていなかったせいでもありません。回復には、段階があります。症状が消えることと、負荷に耐えられる状態に戻ることは、別のことです。職場に戻るということは、その途中段階で現実の負荷の中に入っていくことを意味します。
「せっかく戻れたのに」
「また同じことを繰り返してしまったのではないか」
そう感じたことがあるとしたら、それはあなたの責任ではなく、回復というプロセスそのものが持つ性質だと知ってほしいと思います。厚生労働省の研究班による大規模調査でも、メンタルヘルス不調で休職した労働者の5年以内の再休職率は47.1%に上ることが報告されています*1。約2人に1人が経験していること。あなただけが特別に弱いわけではありません。
心は「適応しよう」とする
もうひとつ、大きなポイントがあります。人は環境に適応しようとする生き物です。職場に戻ると、周囲のペース、業務量、周りからの期待に合わせようとします。
「ちゃんとやらなきゃ」
「前と同じように動けるはず」
そんな思いが、自然と生まれます。この「適応しようとする力」が、回復している途中には、ときに負担になることがあります。無理に環境に合わせようとすると、知らないうちに心と体が消耗していきます。
そしてある時、ふと気づきます。「前と似た感じがする」と。
- 疲れが抜けない
- 集中できない
- 不安が強くなる
- 朝がつらくなる
休職前と似たような反応が出てきます。すると、不安が一気に高まります。「またダメになるのではないか」と。
その不安は、あなたを守ろうとする反応
心配しないでください。この不安は、復職してきた多くの方が体験してきた、とても自然なものです。
人生で一度経験しているからこそ、体も心も敏感に反応してしまいます。これは「気の持ちよう」の問題ではなく、一度うつを経験した脳が、より小さなストレスで同じ反応を起こしやすくなるという性質によるものです*2。だからこそ、前と似た感覚に気づいたとき、不安が強く出やすい。それで再休職が確定したわけではありません。
このときの不安は、単なる気分ではなく、「もう同じ苦しさを繰り返したくない」という、あなたを守ろうとする反応でもあります。だから不安が出ること自体は、回復が失敗したサインではありません。
一時的な不調は、再発ではなく「調整のサイン」
同じような反応が出てきたとき、それに対して「またダメになった」と見るか、「調整が必要なサイン」と見るかで、その後の流れは変わります。
疲れているなら、少しペースを落とす。不安が強いなら、少し負荷を減らす。そうした小さな調整が、大きな崩れを防ぐことにつながります。
具体的には、こんなことから始められます。
- 「今日は80%でいい」と、意識的に上限を決めて働く
- 不調のサインに気づいたら、主治医や支援者にその日のうちに伝える
- 「また崩れるかも」という不安が続くときは、一人で抱えず、言語化する機会をつくる
大切なのは、サインに気づいてから動くまでの時間を短くすることです。早めに調整できれば、大きな波にならずに済むことが多い。「ちょっと変だな」という感覚を、流さないようにしてください。
再休職を繰り返さなかった人に、共通していたこと
10年以上、医療機関で休職・復職支援に携わるなかで、再休職を繰り返さずに働き続けることができた方々には、いくつかの共通点がありました。
ひとつは、職場に環境調整を依頼できていたことです。業務量や内容について上司と具体的に話し合い、「今はここまでできます」と自分の状態を言葉にして伝えていた。完璧に戻ろうとするのではなく、今の自分に合った負荷を相談しながら見つけていくことができていました。
もうひとつは、一人で抱えないための場を持っていたことです。家族に話す、リワークで同じ経験をした仲間と言葉を交わす、カウンセリングで整理する——形はそれぞれでも、自分の状態を外に出す回路を持っていた方は、崩れが大きくなる前に調整できていました。
カウンセリングでは、特に考え方の幅を広げることと、自分の中で起きていることを客観的に見ることに取り組みます。「また失敗した」「自分はダメだ」という思考が自動的に出てきたとき、それをそのまま受け取らずに、少し距離を置いて眺める。その練習が、不調のサインへの反応を変えていきます。
そして、定期的に休む時間を守っていたこと。通院を続けること、セルフケアの時間を削らないこと。「まだ大丈夫」と感じているときにこそ、その習慣を崩さないことが、長く働き続けるための土台になっていました。
Summary
- 復職は回復の「ゴール」ではなく、回復の「プロセス」——約2人に1人が再休職を経験している
- 症状が消えることと、負荷に耐えられる状態に戻ることは別のこと
- 脳は一度不調を経験すると、より小さなストレスで同じ反応を起こしやすくなる
- 「また崩れた」ではなく「調整のサイン」——気づいたら早めに動くことが大切
- 再休職を繰り返さなかった人は、職場・家族・支援者に開きながら、自分の状態を外に出す場を持っていた
最後に
復職できたのに崩れるときもありますし、それは失敗ではありません。回復の途中で、環境と自分のバランスをもう一度整えようとしている状態だったりします。
誰でも一度で完璧に戻るわけではありません。揺れながら、少しずつ自分のペースを見つけていきます。
もし同じような不調が出てきたときは、「またダメになった」と思う前に、「少し調整が必要な時期かもしれない」と、やさしく捉えてみてください。そして、その感覚を一人で抱えたままにしないでほしいと思います。職場でも、家族でも、支援者でも——どこか一か所でいい、言葉にできる場所を持っておくことが、長く続けるための根幹になります。
過去の辛かった体験も、今目の前に訪れているその揺れも、これからのあなたを助けてくれるはずです。
参考文献
- 厚生労働省「主治医と産業医の連携に関する有効な手法の提案に関する研究」(平成28年度 労災疾病臨床研究事業費補助金)
- 厚生労働省「うつ対策推進方策マニュアル——都道府県・市町村職員のために」(2004)。うつ病は再発を繰り返すごとに再発率が上昇し、一度の発症後60%、二度目以降で70〜90%に達することが示されている。